今まで親が住んでいた実家を相続し、そろそろ新築に建替えすることを検討されている方もいるでしょう。
家を新築するにあたっては、既存の建物(実家)を解体し、それから新しい家を建てるので、工事期間としては概ね3から4ヵ月。長いものになるとそれ以上かかることもあるでしょう。
近隣住民はその間ずっと隣近所で工事をしていることになるので、当然ながら理解と協力をいただくことが必要となります。
しかも、建替えをするまでは大きな問題とならなかったものでも、このタイミングでいろいろとトラブルとして浮上してくることもあるのです。
今回は建替え工事中の近隣トラブルについて見ていきましょう。
騒音
解体工事は、ほぼ毎日騒音を出す作業となるため、施主の周囲への気遣いや心配は尽きないでしょう。どんなに対策しても、気をつけても、音を出さずに行うことは不可能だからです。
騒音問題は、解体工事中の近隣からの苦情でもっとも多いものとなっています。法律上の規定では、騒音に関しての基準は85デシベルを越えなければ違法ではないとされています。しかし同じ85デシベルといっても耳障りな音から、気にならない音まであるでしょう。
ちなみに85デシベルというのは救急車のサイレンやピアノの演奏をそばで聞いた音。余談ですが、子どもや女性が携帯している護身用のブザーなどは90デシベルのものが多いそうです。
問題は、その85デシベル以下の騒音でも「うるさい」と思ってしまうことです。
さすがに120デシベル(飛行機のエンジンの近く)のような音が出るとたいていの場合は即苦情につながるでしょうが、たとえば法律の規定内の音量である70デシベルがずっと続くとどうでしょうか。
70デシベルというと騒々しい事務所や街中、あるいは2mほど離れた場所でのセミの声などです。これを一日中、しかも解体工事が終わるまでの間聞いているとしたらどうでしょうか。
法律上の「騒音」と、近隣が思う「騒音」とでは全く別物だということを知っておく必要があるでしょう。法律の規定は、あくまで規定でしかないのです。
粉じん
次に挙げられるのはほこりや粉じんの飛散です。もちろんこれも、まったく粉じんを出さずに建物を取り壊すというのは物理的にも不可能なことです。
そのため、近隣住民の方にはしっかりと理解と協力をしていただく必要があります。
工事中は家の窓を閉めてもらったり、洗濯物はできるだけ家の中で干してもらったりなどの対策に協力をしていただきましょう。また車などは、場合によってはこちらでカバーのできる養生テープを用意して、ホコリが付着しないように利用してもらうなどの対策も講じた方がいいかもしれません。しかし、こういった対策自体にも反感を持ってしまう人も、中にはいます。
そのため、工事前の近隣挨拶では、工程がわかるようなものを持参する必要があるのです。
工事看板の設置は法で定められていますが、近隣挨拶も怠るべきではないということがわかりますね。
害虫・害獣
老朽化した建物を解体する際には、害虫がいる可能性があります。ゴキブリやシロアリ、さらにはネズミなども、建物を解体中に飛び出して近隣の住宅へ避難してしまうことがあります。
こういったことは、解体する家屋が空き家になっている期間が長いほど、リスクは大きいです。住み付いた害虫が住処を脅かされたと感じ、周囲の家や茂みに逃げ込むことで発生するのです。
こうしたトラブルを避けるためには、解体予定の建物の害虫駆除をしっかりと行っておく必要があります。しかしこちらも、駆除を行ったからといって完全に対策ができたかというと、そうとは限らないので、必要に応じて事前に説明をして、近隣住民個々にも対策を講じてもらうようにするのが大切です。
作業員のマナー
こちらは解体、建築のどちらともに言える話なのですが、作業員のマナーが悪いことでの近隣住民とのトラブルも少なくありません。
特に、分離発注をしていない場合は、工務店、もしくはハウスメーカーなど、あるいは新築の一軒家を建築する業者が、下請け業者として解体業者を選定するので、どんな会社が来るのかは施主側からはわかりません、そのため、マナーの悪い作業員がいるかどうかなど、確認するすべがないのです。
苦情が来てからでは手遅れなので、そこもしっかりと押さえておきたいところです。
必ずしもハウスメーカーや工務店が自社の直営で建築をしているとは限らないため、業者を選定する前にインターネットなどの情報、口コミや評価など。できるだけチェックしておくのがよいでしょう。
ともすれば、作業員はただ規定の休憩時間の範囲で休憩をしているだけかもしれませんが、近隣住民の感情的には騒音や振動、さらには粉じんを飛散させている「諸悪の根源」であるわけです。
単純に心証の問題ではありますが、残念ながら、近隣住民の中にはそれだけでよく思わない方もいるかもしれないのです。
近隣の所有物や公共物の破損
人間が行っていることなので、細心の注意を払っていたとしても、解体工事中に公共物や隣家の所有物、さらには隣家の建物などの破損をしてしまうこともあるでしょう。
狭い場所での作業を余儀なくされているときや、街中の入り組んだ場所や、住宅が密集しているような場所ならなおのことです。特に重機での作業をしている際には、慎重に進めていても操作ミスや判断ミスによって、トラブルが発生してしまう可能性があります。
しかし、利益重視であるがための工期を縮めるといった行為は言語道断で、あってはならないことです。無理に工期を縮めることで表向きには利益を上げられる可能性はあるかもしれませんが、住民トラブルどころか人命に危険が及ぶような事故の可能性も起こりうるのです。
物損事故については、基本的には業者側が責任をもって弁償することになっています。損害賠償保険に加入し、補償するのが通常です。まずはそうならないよう作業をしっかりと行うことが第一です。
しかし、近年では熟練した職人が慢性的に不足しているのが実情です。今後熟練した職人はどんどん少なくなっていくため、今にも増して事故には気をつけて進めていかなければならないでしょう。
まとめ
解体及び建築工事というのは、このようにいろんなリスクを伴っての作業となります。
それらは仕方ないことだからとあきらめるのはもってのほかですが、だからといって現場内で適切な措置を取ったとしても、完全に防ぐことも不可能です。100パーセントはありえないのです。
そこで重要なのは、近隣住民の理解と協力を得ることです。現場に看板などを設置する義務をきちんと果たしていても、しっかりと周辺の方々には説明をしておくべきといえます。
一軒一軒挨拶にまわるだけでなく、説明会を催すとか、どうしても会えないご家庭があれば、近隣のポストに手紙を投函しておくという方法もあるでしょう。
説明時期に関しては、概ね工事開始の7日前までに済ませることが義務付けられています。一度説明をしたからといって、それで十分だということは決してありません。規定を果たしたからそれで十分というわけではなく、大事なのは人の心情、つまり近隣住民の気持ちです。いくら説明をしたとしてもトラブルがなくなるわけではないので、誠意を込めてあらかじめそのような挨拶をしっかりと行える業者の選択は大切です。